2004年05月05日
川俣晶の縁側IT都市伝説 total 4269 count

ブロードバンド時代には、通信回線があればどこでも仕事ができる。さあ、都会を抜け出して大自然の中で仕事をしよう!

Written By: 川俣 晶連絡先

 誰が言い出したのか、まことしやかに流布される謎の解釈。

 今回のIT都市伝説はこれだ!

ブロードバンド時代には、通信回線があればどこでも仕事ができる。さあ、都会を抜け出して大自然の中で仕事をしよう! §

 通信回線が高速化すると、膨大な情報を一瞬で交換できます。TV電話を使った会議なども可能になり、誰もが同じ場所に集まる必要も無くなります。また、距離も意味を持たなくなるので、自分の好きなところで仕事をすることができるようになります。

 通勤地獄からも解放されますし、大自然の中で仕事をすることも可能です。

などという綺麗事が実現不可能であることはちょっと考えれば…… §

 高速な通信回線があれば仕事ができる、というのは、どう考えても実現不可能なトンデモでしょう。

 それは、ちょっと考えれば分かることです。

 たとえば、通信回線で形あるものは送ることができません。パソコン雑誌のライターで、電子メールだけを使って仕事をこなした経験も多いですが、全ての仕事が電子メールだけで済むわけではありません。資料やソフトのインストールCDなど、形あるものが必要とされることも珍しくありません。え? 資料など、スキャンして送れば良いだろう? 数百枚の分厚い資料をスキャンする手間はバカにならないし、仮にそれを行ったとしても、「ずっしりと手に取ると重い資料だった」という文章は書けないことになります。また、ハードウェアデバイスのレビュー記事などになれば、どうしても形あるものの受け渡しが必要とされます。

 それら、形あるものを受け渡すために、郵便や宅急便を活用することも珍しくありません。たとえば、宅急便で翌日に届かない場所に住むと、それだけで急ぎの仕事に差し支えが出ることも考えられます。

 そして、通信回線を経由して送られる情報には限りがあることにも問題があります。もともとデジタルである情報を送受信する場合はロスがない転送が可能と言えるかも知れません。しかし、会議を会議室でやるのと電子会議としてネットワークでやるのでは、伝わる情報量が圧倒的に違います。画面に表示されていない部分、画面で再現されない細部のニュアンス、そもそも伝わらない温度や匂いなど、それらの情報は不必要に見えて、人に影響を与える場合があります。更に、会議の後で飲みに行ったりすると、全く異質な情報も交換されます。それらの情報の量と質の差は圧倒的なものがあり、直接会うかどうかによって、コミュニケーションの質や、人間関係も大きな影響を受けると思います。

 それらを踏まえると、直接会わなくても仕事ができる、というような考え方は、少々物事を単純化しすぎている感じを受けます。

では、絶対に直接会うことが重要なのかというと…… §

 このような問題は、逆の角度から見ることもできます。

 直接会うことと、通信回線経由では情報の量と質が圧倒的に違う、という点を認めたとすると、それはただ単に情報の量と質の差に過ぎないのか、という問いかけが可能だと思います。

 もし、その通り、と考えるなら、もっと大量かつ良質な情報を送信できるように技術が進歩すれば直接会わなくても仕事ができるという主張につながるかもしれません。

 しかし、技術の問題ではなく、通信回線などでは送ることができない重要な何かがあるのだ、と考えるなら、いかに技術が進歩しようと直接会わねばなりません。

 これについての結論はありません。

 こういう問いかけがあり得る、ということだけ示しておきます。